支部からのお知らせ

  • 投稿:2008年9月30日
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【連載】保存再生 建築家の視点

シンポジウム-吉田鉄郎と大阪中央郵便局庁舎
2008秋号 保存再生(顔写真)
執筆者:小原陽二郎
(小原陽二郎建築研究所)
去る9月13日に、毎日インテシオビル内の常翔学園大阪センターにおいて、シンポジウム「日本における近代建築-吉田鉄郎の作品:大阪・東京ふたつの中央郵便局庁舎-」がJIA近畿支部の主催で開かれた。郵政民営化に伴なう不動産開発のための大阪中央郵便局庁舎の建替え問題を巡っては、昨年10月12日のシンポジウムに次ぐものであり、会場にはJIA会員の他、一般市民、学生、報道関係者など約120名が集まりこの問題への関心の高さが伺えた。
2008秋号 保存再生1
会場風景


当日は、吉田鉄郎氏(以下敬称を略して吉田と記す)の生誕地富山にちなんで富山テレビ放送で制作されたドキュメンタリー「平凡なるもの~建築家吉田鉄郎物語」が上映され、同社報道制作局の東亜希子氏が解説をされた。ドイツで出版された吉田の著作「日本の住宅-改訂版」の原稿が彼の地で発見されたことを縦糸に、東京・大阪の両中央郵便局庁舎に至る吉田の多彩な作品を、当時の時代状況や吉田を知る人の証言などを交えて情緒深く描いた興味深いもので、来場者は改めて日本近代建築史上に吉田の立つ位置の重要性に思いを致すこととなった。
その後、芝浦工業大学の南一誠教授は、吉田が大規模なRC造建築の他に多数の木造の郵便局や住宅を設計したことを挙げ、日本建築の真壁の軸組をそのまま鉄筋コンクリート造の柱・梁・壁に適用することが彼の究極の目標であったことを、1951年竣工の北陸銀行新潟支店を例に指摘された。1939年竣工の大阪中央郵便局はその最大最高の実践であり、日本建築の「清らかな」構成原理を再現しようとしたことが、同時に戦前のモダニズム建築の到達点となったことがよく理解できた。現庁舎の保存に関しては大阪市への意見書に基づく懇切な解説があり、東京中央郵便局同様に全てを残すべきであって、吉田の言う「清らかな心」があれば残せると結論付けられた。
神戸大学大学院の足立裕司教授は、中央郵便局庁舎自体の精密な分析のあと、大阪は東京を経た後の吉田の論理的な追及の完成形であると述べられ、サブプライムローン問題に端を発する不動産不況が、巨額を要する建替え事業の風向きを替える可能性があることを示唆された。奇しくもこの日の1週間後に米大手証券会社の破綻が明らかになったのである。
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北陸銀行新潟支店(INAXREPORT.NO104より転載)
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南東からの全景
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南西からの全景
会場の意見交換では、熟年の一般の方から、「中郵」は暗い感じで日中戦争中にできたこともあり大阪市民は余り良い印象を持っていないという、端的で耳の痛い意見がでた。
確かに市民の広範な理解と支持がなければ事はなり難く、その点白亜の東京に比べ暗色の大阪は分が悪い。このグレーの色調にイメージ豊かな名前をつけることが今重要であるという足立氏の指摘は正しい。吉田がこの色のタイルを選択したことについては、煤煙けむる大阪の町に合せたとか、戦時中の防空用配慮であるとか様々な推測があるが、建築家なら誰でもそうだが、当然吉田は彼の構想を完璧なものとするためにはこれしかないという色を慎重に選んだのである。過日晴れた日に、壁面のタイルを間近でしげしげと見たが、この窯変豊かなグレー色には確かに緑味が入っている。足立氏の言われた「利休ねずみ」でも良いと思う。その後、司会の近畿支部保存再生部会長の橋本健治氏が言われた、古びた木造建築の柱の色を意図したというのが、南氏のお話の趣旨から考えて正解かもしれない。
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タイル近景
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ホール現状
梅田界隈は幼稚園の頃から母親に連れられてうろうろし、阪急前の歩道で進駐軍の兵士がタバコをふかしていたのを何故かよく覚えている。当時大阪駅の左手に阪急百貨店、右手に中郵、正面には大阪で一番高いと言われていた12階建の第一生命ビルがあった。ヒルトンの敷地はゴミゴミした闇市の跡でその中に旭屋があり高校生の時までよく通ったが、確かに西梅田方面と中郵の印象は薄い。その大阪駅はアルミの屏風のような建物に変わり、阪急も旧コンコースの一画さえ残すことができなくてあっという間に姿を消した。
なくなって始めてわかる価値に、今気づくこと。会の最後に京都工芸繊維大学大学院の松隈洋准教授の言われた言葉である。「中郵」がなくなって気づくことは沢山あるだろう。高層ビルのなかで唯一開けていた上空のオープンスペースが失われるだろう。オオサカガーデンシティの一見煌びやかなビル群は、実は入口の中郵の懐かしい存在が重しとなってなんとか景観的に成立していたのではなかったか?
市民に縦覧された大阪市の都市計画案は、ガーデンシティから続く幅員10mの歩行者専用通路や東南角の多目的広場などによる「美しいまちなみの形成」を掲げ、まさに(未来の)景観を以って(記憶された)景観を制するという趣きである。既に外堀は埋められていることを痛感するが、(ありうべき)景観を仮像するにはノスタルジーだけではなくまだまだ考えるべきことが沢山あるのは確かであろう。
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駅前から西梅田方面を見る

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