支部からのお知らせ

  • 投稿:2010年1月8日
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【連載】保存再生 建築家の視点

「ヴォーリズ建築事務所での保存・再生を通して」
保存1
執筆者:青井弘之(一粒社ヴォーリズ建築事務所)
『今日 一柳米来留の名を知っている人はあまり多くはないだろう。ウイリアム・メリル・ヴォーリズといったなら<ヴォーリズ建築事務所>のヴォーリズかと思いだす人はかなりいるかもしれない。・・・』(『一柳米来留について』 中真巳)


『近代建築』1963年11月号に掲載されている内容を見ると、当時のヴォーリズ建築の関心の持たれ具合がわかる。
戦前までに千数百もの作品を生みだしたヴォーリズ建築事務所も、その後は時代の変化への対応を余儀なくされ、加えてヴォーリズ自身が病に倒れたことも受け、次第に人々から忘れ去られた存在になっていった時期である。当時においても、ヴォーリズ作品の建築界としての評価は、難しい、というか取扱い難いものであったようだ。建築的な質としては認められながらも、その非個性的とも言われる作風姿勢が、最新の建築思潮界からはともすれば否定的に捉われてきていた。それからさらに半世紀近く経過し、諸先輩方の研究の成果もあり、建築的な位置づけとしては、明確な定義を仕切れない中でも、現在においてはその普遍的な温かみにより、ヴォーリズ作品は人々にとって身近な存在になっているのはよく知られるところである。
一粒社ヴォーリズ建築事務所は、ヴォーリズが1908年に開設して以来、その精神を継続させてきている。
建築界以外の方々からは、往年のヴォーリズ建築のメンテ・補修を専門に行っている事務所ですか、と聞かれることがある。戦前のヴォーリズ作品を取り扱うことは希ではあるが、やはり他の事務所と比較すると、近代化遺産的作品の保存・再生に関わる機会は多いほうといえる。しかも自らの事務所が設計した物件の、数十年経過したものと対峙するわけだから、他の歴史的建築物と接するのとはまた違う感慨がある。
ダイビルの保存問題で多くの人々が解体を憂い、その周辺の景観的価値も日増しに危ぶまれてきている中之島のビルディング群の中で、やはり惜しまれつつも建替えられたかつての大同生命ビルも、建設当時ヴォーリズ渾身のオフィスビルであった。建替えにあたっては歴史性、イメージの継承として、ヴォーリズ建築事務所も新ビルの計画に関っている。保存に関して新しいところでは、同志社大学アーモスト館の耐震・補修および内部の改修設計を行い、キャンパス内にこの先さらに生き続けるべく再生事業に携わっている。また、豊郷小学校の耐震・改修工事にも関る機会を得た。
当然これら事業は、クライアントとそのパートナーである企業としてのヴォーリズ事務所が存在した上で成立することである。ある意味建築家の一面である。勤務してようやく2年が経過した私が、今のヴォーリズ事務所を包括して述べることなどできようはずもない。ただ、ヴォーリズ本人の想いを今仮に聞くことが可能ならば、一時は人々から忘れ去られるまでになりながらも、昨今ますます文化的価値を取沙汰されてきている作品群に対して、彼はどのように応えを示してくれるだろうか。それにはキリスト教精神を抜きにしては考えられない。このことはヴォーリズがこれら建築を日本の地に残した根本の芯であるし、保存問題に関しても、その背景において表裏一体で考えなくてはならないことであろう。
102年目に入った事務所で、非常に難しい保存・再生の問題に関し、真摯に対峙せねばならぬことと実感している。

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