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  • 投稿:2009年4月7日
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【連載】都市点描

野生動物が棲む都市
道家氏顔
執筆者:道家 駿太郎
(大阪工業大学教授)
(JIA近畿支部京都地域会長)
先日我が家に猿が浸入してきた。鍵の掛かっていない窓を開け入っていたが家人が追い払うと、悠然と同じ窓から出て行ったそうだ。どうやら窓際に乾燥させるために干していたお餅を、以前から狙っていたらしい。夜イノシシに出会うことも多い。道の真ん中で、どうやら山芋の根のような物を噛んでいて、車のライトやクラクションにも動ぜず、数分間にらみ合ったが、これもまた食べ終わると悠然と藪の中に入っていった。


折角植えた花や野菜が一晩で掘り返されることも希ではない。それも春夏秋冬どの季節でもやってくる。瓜坊主を連れてくることもある。
こんな話しをすると何処かで田舎暮らしをしていると思われるかもしれないが、住んでいるところは、れっきとした京都の左京区・哲学の道に近く、人家の多い町中である。大文字山の裾野になるので、大型の野生動物がうろつくのも当然かもしれないが、自然の森や緑からかなり離れた町中でも野生動物が多く棲んでいることはあまり知られていない。
最もポピュラーな動物はイタチである。先日も私が改装の仕事をした祇園の真ん中の家で、変な臭いがするというので大工に調べさせたところ、断熱材を入れた壁の僅かな隙間にイタチが巣を作っていた。
古い町家ではムカデが出てくるのは普通のことである。祇園祭の山鉾の建つ鉾町に「百足屋町」と言う町名がある。ムカデを町名にするくらいなので、よっぽどムカデと縁の深い(良く出る)地区かと思いヒヤリングをしたところ、残念ながら商売人の町としてムカデの生命力にあやかり命名されているそうだ。鉾や山の装飾品などをしまっている「町や」の欄間にムカデの姿が彫られていたが、普通はいやがられる物を町のシンボルにするなど、京都でも昔から町中で野生動物と共生していた様だ。文化として取り込み、自然との共生意識が見られる。
都市点描

大都市の町中で野生動物が生息している事は良く話題になる。英国のブリストルの家の地下室に狐が6匹ほど巣作りをしていたとか、アライグマが下水管の中で生息しているニュースも良く聞く。
野生動物が人家の近くで散見されると、山の開発によって食料がなくなり人家に迫ってきた、と自然破壊のシンボルのように言われるがむしろ、都市が成熟すると野生動物にとっても住みやすい環境になる、といった方が当たっていそうだ。野生動物にとって餌を採る事が最大の生存条件であるが、労せずに豊富な餌にありつけるので、わざわざ山奥に戻るようなことをしなくなる。また、動物自身が環境に順応して生き延びるようになる。

御池通りのケヤキの枝に夕方には多くの椋鳥が集まり、車の騒音に負けない位騒々しくなる。安全なねぐらを町中に求める例は多くの都市でも見られる。
水辺に生息するハクセキレイが杉並区荻窪駅前の看板などにねぐらを求めている例も報告されている。昼間は水辺などにいるが、夕方に都心にもどり、天敵も少ない環境が鳥のくらしにも適したようだ。
京都は、ムカデやイタチに悩まされるが、人も動物も成熟した暮らしを享受出来るように、練り上げられた生物の共生環境が出来ている都市であると思う。
【参考資料】
「大都会を生きる野鳥達」/川内博著/地人書館
「イギリスの都会のキツネ」/スティーヴン・ハリス著/齋藤慎一郎訳/晶文社

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