JIAデザイントーク2009
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●2009年度 第3回デザイントーク
開催日:2010年1月25日(月)
コメンテーター:岡本 隆、高砂正弘、長田直之、本多友常、山隈直人、横川隆一、吉村篤一
司会:青砥聖逸
発表者:阿曽芙実、前田茂樹
会場:大阪市中央公会堂 地下大会議室
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■阿曽芙実氏(阿曽芙実建築設計事務所)
発表作品/「絡み合う窓から見えるもの-JIAKINKI U-40設計コンペティション六甲山上の展望台-を終えて」
絡み合う窓から見えるもの
第1回 JIA KINKI U-40 設計コンペティション「六甲山上の展望台」では、小さい頃からの思い出がたくさんある六甲山や、六甲山と神戸という街との繋がりについて再認識するきっかけとなった。例えば、観光都市神戸としての事業や街づくりは一般住民にも浸透していた。ハーバーランドはその象徴だった。その後、ピークを過ぎた観光都市神戸に震災が決定打となった。阪神大震災で焼け野原となった地域のほとんどが神戸を支える下町だった。小さな木造が軒を連ね、町は時代とともに少しづつの変化を遂げるはずであったが、震災後の再開発ではここぞとばかりに一気に高層化された様にも思えた。「震災復興」の掛声で安価で希薄なものが立ち並んで行く。慣れ親しんだ街の風景が全く知らない町になって行った。当時、私は高校2年生。このコンペが行われたのは、震災から13年後のことだった。
このコンペの様に公共性の高い建物が一般市民に公開され議論されてることは、一市民でもある私にとっても望んでいたことだ。このコンペでは、住み手に重心を置いた街づくりとそこで暮らす人々のスタイルによってできる魅力こそが厚みのある神戸らしさに繋がるということを伝えたい。観光客ではなく市民で賑わう場所にしたい。
コンペに応募するにあたって、あらためて展望台の建つ敷地に訪れた。風が吹き、霧が立ちこめる。六甲山ではよくある風景だ。この霧や風を遮る存在ではなく、一瞬紛れて消えてしまう。訪れた人が霧や風の中に身を委ねる。そんな存在をつくりたいと思った。形のない、裏表のないものをスケッチし始め、そのうちに迷路の様に彷徨う空間の繰り返しと唯一の現実的条件を与える景色とのコントラストによって、ここでしかできない特別な存在をつくり出せるのではないかと思った。
柔らかな円をいくつか重ね合わせ、空間に空間を重ねる。景色を切り取る窓は抽象的に、できるだけ薄く。霧や風に紛れる様なふわっと浮いた存在。風にひらひらと舞うカーテンの様に12mmの鉄板を上からぶら下げ、その隙間にスラブを吊るし込む。上から吊るされた鉄板は、ブランコに足をのせた瞬間に手や足から伝わる鎖の緊張する感触に似ていて、地面から生えたものとは違い、三半規管を振るわせる感触がするのではないかという想像と共に、12mmのシングル鉄板を切り取った窓は景色をより抽象的に映し出すだろう。霧が立ちこめ、壁が消え、自分の足下さえも分からなくなり、ひらひらと舞う空間の隙間に浮かんでいるとしたら、もしかしたら、本当に霧の中に囲まれる様な感覚になったりして。。そんな半信半疑で楽しい想像を繰り返し、ワクワクしていた。
2次審査では、構造解析でそれらを証明することもでき、さらに現実的になる可能性に胸を弾ませていた。
残念ながら最優秀には選ばれなかったなが、いつしかこの2つの感覚を確かめたいと思う。と、同時に7月には最優秀賞の作品ができ上がるので、そちらもまた待ち遠しい。
■前田茂樹氏(前田茂樹建築設計事務所、Dominique PerraultArchitecture Japan)
発表作品/「ピレネー山中の温泉施設と日本庭園」「六甲山上の展望台」
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