豊田市美術館と秋野不矩美術館、他を訪ねる
執筆者:志村公夫
(志村建築設計事務所)
【担当世話人】志村公夫/瀧川嘉彦
【日時】2009年3月14日(土)
【参加者】18名
[瞑想の森市営斎場 設計 伊東豊雄]
延べ面積2,260㎡の平屋で波打つ鉄筋コンクリートのシェル構造の屋根を室内の間接照明が効果的に浮かび上がらせ軽やかに施設を包み込む造形は見事であった。この構造を実現するための、構造設計と施工法に参加者の興味が盛り上がった。
瞑想の森
[名古屋大学 野依記念物質科学研究館、野依記念学術交流館、設計 飯田善彦]
野依記念物質科学研究館は野依教授のノーベル賞受賞の記念する施設であり実験、研究室展示室も備えた地下1階地上7階約7,000㎡の巨大な施設である。従来の研究室の冷たい外観でなく4面のファサードの仕上げ材料を変えて、特に正面のファサードは設計者自身のデザインしたガラスパネルで外観を構成し、ゆるくカーブしている。その延長がガラスパネルのカーブしたフェンスになり広場を囲み、さらに延長されたカーブが野依記念学術交流館の楕円の平面のガラス貼りの外観の壁につながる空間構成をしている。学術交流館は地上4階地下1階約3,500㎡の施設で国内外の優れた研究者の交流と会議、長期滞在者のための宿泊施設を備えた複合施設である。楕円のガラス貼りの外観は近隣の大学の施設の中でも特異で、4階のメゾネットの宿泊施設の異なる規模の形状が3階までのガラスの楕円の基壇に乗っているデザインである。施設の奥の自然林に開かれた快適な図書コーナーやガラスの中にはめ込まれた、カンファレンスホールの構成は未来志向のデザインといえる。宿泊施設も新しい和のデザインを取り入れ、中庭を囲む形で交流施設としてのあり方を提案している。ディテールも細やかにデザインされ飯田氏のエネルギーが伝わってくる建築であった。
写真左から
「学術交流館宿泊施設」「学術交流館図書コーナー」「野依記念学術交流館」「野依記念物質科学研究館」
[豊田講堂 設計 槙文彦]
1960年に建設された地下1階地上3階、延べ床面積約6,300㎡のコンクリート打ち放しの講堂の劣化した外観を補修し、地下1階地上1階の約840㎡の増築をしている。
モダニズムデザインの名建築を保存しさらに活用するための大改修工事で特にコンクリート打ち放しの質感も復元するという工事である。工事を担当した竹中工務店の森氏に極薄コンクリート増し打ち工法を解説をしていただき、ホール内部も見学することが出来た。
飯田氏の紹介で名古屋大学の施設課の戸島氏が各施設を案内して下さり、普通には入ることの出来ない施設を見学できた。
写真左「豊田講堂」 写真中央「エントランス」 写真右「内観」
[豊田市美術館 設計 谷口吉生]
建築面積約6,200㎡、地下2階、地上3階延べ床面積約11,000㎡の大建築であるが大きさを感じさせない空間構成は見事である。ランドスケープデザインと一体にデザインされ、水平の薄いパーゴラが広大な池と庭園を美術館の本館と分離している。グリーンのスレートと格子の付いたガラスの白いカーテンウオールで出来た美術館のファサードはボリュームを感じさせず、気品のある緊張感を生み出している。広大な施設にもかかわらず、回遊して楽しい美術館である。隣接する茶室も立礼と広間を見学できたが、伝統の数奇屋の作法に現代性を加味し、父上の谷口吉郎の影響を感じる名作であった。
写真左「豊田市美術館アプローチ」 写真中央「豊田市美術館」 写真右「ギャラリー」
写真左「豊田市美術館茶室」 写真右「広間10帖」
宿泊地の足助町は、市民の力で紅葉の名所香嵐渓を作り、足助屋敷を作り、町並を守り観光地とした。浦辺事務所が町づくりにかかわり、所員の上杉氏が設計した蔵のギャラリーのある書店を見学し、「百年草」に宿泊した。足助観光協会の鱸(すずき)氏に町づくりの歴史を解説していただき、季節ごとのイベントの企画を解説していただいた。地域の特性を見出し、どのように生かすか興味のある内容であった。翌朝、市民が植えた「かたくりの花」の群生を見学した。
写真左「足助屋敷」 写真中央「足助町」 写真右「かたくりの花」
[秋野不矩美術館 設計 藤森輝信]
足助町から天竜市までは大変遠く、午後になってしまったが、延床面積約1,000㎡の規模で丘の上に建つ砦のような荒削りなデザインは豊田市美術館との対比が強烈であった。作家によりこれほどの違いが出るのかと感じさせられる対比であるが、藤森氏の民家の記憶を呼び起こすような造形は迫力があり、秋野さんのインドの絵画によくあっていると感じた。
写真左「秋野不矩美術館1」 写真中央「秋野不矩美術館2」 写真右「秋野不矩美術館ホール」
[OMソーラー研究所 設計 永田昌民]
浜名湖に面する研究施設で延床面積約2,000㎡ののびやかな平面の施設で奥村昭雄の家具を使い、木造の暖かさのあるデザインである。OMソーラーの研修施設であるが、見学時間が1時間でもう少し、見学したかったが残念ながら帰途に着いた。かなりの距離の欲張りな研修旅行であったが無事、全行程をまわることができ、世話人の瀧川さんとほっとしました。
OMソーラー研究所
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