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  • 投稿:2026年3月31日
  • by 西本寛史
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「THE DIALOGUE」 建築家事務所訪問 Vol.4

【執筆者】
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建築家 森田一弥(森田一弥建築設計事務所)敬称略 日時 2026年1月24日

参加者(青年委員会) 池井健、倉知寛之、眞野サトル、田辺弘幸、谷岡拓、西本寛史、邊見栄俊、松本和也

オブザーバー(建築家) 阿曽芙実、石上芳弘、出江潤、髙橋勝

 

今回は、京都・静原の豊かな自然と古い家並みが残るこの集落に拠点を置き、設計から施工、さらには地域づくりまでを一貫して手がける建築家・森田一弥さんに、そのユニークな歩みと建築への想いを伺いました。

 

 

 

既存の雰囲気を最大限に生かしながら造られたゲストハウスの前で

 

〇 どのような経緯で静原を拠点とされることになったのでしょうか 

学生の頃から、街で建築するというよりは「集落」単位で何かできないかということを考えていました。集落や郊外で建築することに挑戦したかったのが原点です。 また、改修の仕事(施工)が多かったので、材料や道具をストックする場所が必要でした。スペインに行くにあたり、ちょうど静原で良い物件を見つけたことがきっかけです。

 

〇 左官職人の道に入ったきっかけと、独立するタイミングで工務店などの選択肢はあったのか教えていただけないでしょうか

偶然です(笑)。大学院時代、修士論文を出してから現場で働けるところを探していたら、後輩が「しっくい浅原」を紹介してくれました。職種は問わず、とにかく現場をやりたかった。大学院卒業後、左官職人として5年勤め、2000年に独立しました。

職人時代から図面を描きながら工事を手掛けていましたので、工務店として独立するという選択肢はあまりなかったですね。どちらかというと設計施工のスタンスで全てやりたいと考えています。図面が書けなくても技術があれば現場は出来てしまいますが、スペインに行った理由は「設計事務所」を運営したいと思ったからです。 現地ではエンリク・ミラージェスの事務所に席を置かせてもらいました。ヨーロッパの左官技術を知りたかった時に、スペインがおもしろいということに行き着いたのです。

 

〇 森田さんは左官を学び、手を動かすプロセスを重視されていますが、手の建築はこれからの建築界に対し、どのような変化をもたらせると思いますか 

集落で建築をすることは小さな仕事しかありません。しかし、運営・施工も含め全て受けることによって、集落と関わり続けられるようになります。 私の教育では、学生に向けて文化財を扱う職人を紹介し、現場でアルバイトをさせています。うちの学生は職人、現場監督、設計と、多岐にわたり就職します。全てを受けるということはいろんなことをケアする(掃除、火の世話、作物を育てる等)ということ。ケアすることによってコンピュータでは分らない実際の気づきを体験し、建築にフィードバックさせていくことが大事だと思います。

 

〇 築100年を超える建築物のリノベーションや、新築においても屋根は瓦を用いて軒を深く出したり、RCの建物でも庇がついていたりなど、時間の経過を感じさせるような建築の佇まいという点で、リノベーション・新築を設計する際の設計手法の違いや向き合い方などの違いはありますか 

新築だから新しい、古民家だから古いという訳ではなく、技術や形式を埋め込むことで「時間のパラメーター」を操作しています。御所西の町家もそうです。 時間を感じない空間はつまらないと思っています。造っているプロセスを表現していきたい。ミラージェスの建築はまさにそうでした。

 

〇 バルセロナやスイスなど海外での活動から、建築デザイン、特に設計手法などに受けた影響などはありますか

それらは私の発想の源です。民家も同様かと思いますが、スイスの共同パン窯のような「生活風習」には影響を受けました。都市建築においても、形式的なものの本質を感じとれたと思います。

 

〇 建築における「土」という素材を、森田さんが“現代的に扱う”うえで最も大事にしている視点は何でしょうか

左官は「仕上げ」という考え方から「構造体」と考えるようになり、その後「蓄熱体」としても考えるようになりました。日干し煉瓦によるかまどがその一例です。静原だと冬季はかなり気温が下がりますので空気を暖めるだけでは効率が悪く、対流や輻射を考えるようになりました。内部の仕上げ自体が、蓄熱し、放熱し、断熱にもなる。温熱環境に影響する使い方を大事に考えています。

また、熱を扱うということはエネルギーを扱うということです。薪を使うことによって、エネルギーの循環を考えるようになりました。手元にある木材や土などの資源を効率良くエネルギーとして扱うことが本来的だなと思います。太陽のエネルギーを使うことも大事だと感じます。

 

〇 これから設計したい建築や事務所の規模感や仕事の仕方など、設計者としての今後の具体的なビジョンを聞かせて頂けないでしょうか 

常に「ここで何ができるか」を考えていきたい。設計、施工と分けずに、宿の運営も含めて「集落アーキテクト」という職能を探求していきたいです。 あとは、バルのようなコミュニティベースの場所をつくりたい。静原で学んだことを外に発信していきたいですし、いろんなところでかまどを造りたいですね。かまどで焼いたパン、めちゃくちゃうまいですよ。

 

元々車庫だった建物を改修した事務所の様子 

 

ゲストハウス2階のLDKで取材と懇親会を

 

今回の取材では、森田一弥さんのアトリエをJIA近畿支部 青年委員会メンバーで訪ね、森田さんの造り上げる一つの街のような建築空間を体験することができました。

当日の静原集落は小雪がちらつきとても幻想的ななか、事務所、住居、ゲストハウスといった場所を案内していだき、自分たちの手で造るということ、材料の本質を知ることの大切さを今一度考えなおすことができました。

取材と懇親会の場では、建築家と職人の両方の視点をもった独自の取組み方や考え方を知る事ができ、設計業の枠を超えて生きるということの原点を教えていただいたようです。今回はこの熱意と職能を世に発信する機会に繋がったと感じています。

建築家のしごとは本来公益性を持ったものであり、我々建築の世界に所属するメンバーだけでなく、広く一般の方々に触れる機会を創り出していきたいと考えています。これからも「THE DIALOGUE」をよろしくお願いいたします。(記事:西本寛史)

 

   
イベント名称 「THE DIALOGUE」 建築家事務所訪問 Vol.4
開催日時2026-01-24
建築をつくる仲間たち